そう・・・・・
これは、「最初にして、最後のマジックショー」という、一回きりのショーなのだ
それを彼も、確信していた・・・・
このキューブ・マジックは、彼のマジックの中でも特別なもの・・・・
というより、マジックであってマジックではないのだ!
ここ数年、彼はひどく疲れてしまっていて、
何かとてつもないマジックを最後に引退しよう・・・・と、考えていた
そんな彼は、真夜中にアイデアを考えながら
街や公園をぶらぶらと一晩中歩き回ったりする事が多くなっていた
しかし、そう簡単にそんなマジックのアイデアが浮かんでくるはずもなく
引退できずにいたのだ・・・・
この夜も街を一周して、少し離れた公園へ向った
この辺は、人通りもほとんどなく草や木が生い茂っていて
空気もひんやりとした感じがする
公園の手前まで来て、彼は立ち止まった
少し先の草むらが、街灯の灯りが当たっている訳でもないのに
青白く光っているのだ・・・・
彼は、少し不安な気持ちになりながらも、恐る恐る近づいて行った
するとそこには、透明なキューブが青白く光って宙に浮かんでいた・・・・
一辺が10センチ位だろうか・・・・・、
よく見ると、黒いステッキのような物の先端が
キューブの中に溶け込むように上から突き刺さっている
彼は、キューブからそのステッキに添って視線を這わせた
ステッキの長さは50㎝位で、根元部分には、なにやらスカルのような飾りがついている
そう・・・キューブにステッキが突っ立った不思議な状態で浮かんでいるのだ・・・
彼は、まさにマジックのようだと感心した!
そこへ、一匹のカナブンが飛んできてステッキにとまった!
カナブンは、ステッキを下へ降りていく
そして、キューブの壁にぶつかって止まるかと思いきや
壁をすり抜けて中へ入ってしまった
彼は、そのキューブを触ってみた
ひんやりとした感触・・・・だが、硬いわけではない
ステッキの刺さっている面も含めて
確かに全ての面が少し弾力性のある壁なのだ・・・・・・摩訶不思議・・・・?
キューブの中の虫は、もぞもぞとステッキの先で動いている
しばらくすると虫の体色が変化しだした・・・・
彼は、とっさにステッキを掴むと上に引き抜いた・・・・
簡単に引き抜けたし、虫は、ステッキについたまま
壁をすり抜けた!!
彼は、驚くと同時に素晴らしいマジックの種を見つけたと思った・・・・
そして、恐る恐るやさしくキューブを掴むと
上着のポケットに入れ、
ステッキの虫を払い落として、大急ぎで家に戻った・・・・・。
・・・・つづく